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NPOにおける世代交代の事例報告

新旧代表写真NPO法が施行されて10年を経過し、NPOがセクターとして社会的に成熟し歴史を重ねるとともに、世代交代の必要にせまられるNPOも増加することが予想されます。
強いリーダーシップを持った創始者が交代するとき、それを乗り越えていかにさらなる活動の発展へつなげていくか。企業ではなく、想いを第一に動くNPOだからこそ、スムーズな交代が難しくなるケースもあるのではないでしょうか。そんな中で、世代交代の時期を迎えた当会がどのようにそれを進めたかを、1つのモデルケースとして報告します。

■世代交代に至った背景

中部リサイクル運動市民の会 (以下「中R」) は1980年に活動を開始して以来、創始者である前代表が活動の方向性を定め、会を牽引してきました。そしてスタッフは会の目的に共鳴し、各々任された業務を行ってきました。いわば前代表が会としての "攻め" を担当し、それを受けてスタッフがシステムをつくり、 "守り" を担当する、という体制で活動を続けてきました。
その後、前代表がますます社会に対する "攻め" に徹し、中R以外にも様々な組織※1を作りながら活動を広げるうち、「 "中R=自分" というところからのズレ」を感じはじめ、世代交代の必要性を認識しました。そして代表を降りる決意を表明し、「理事ではなく現場のスタッフから次期代表を」という前代表の意向のもと、スタッフ2人が共同で担う形で、次の代表への移行が始まりました。

※1 「 エコデザイン市民社会フォーラム」「 地域の未来・志援センター」など

■リゾーム型組織への転換

前代表が50代だったのに対し、受け継ぐ2人は30代になったばかり。会の事業規模と責任や期待の大きさに、かなりの不安とプレッシャーを感じたそうです。そのため1年間、肩書きはそのまま、実務は代表としてという試用期間を経て、2007年6月に名実ともに代表を交代しました。従来の経験あるリーダーによる方向づけに頼る体制は成り立たなくなったため、スタッフそれぞれが自立性、専門性と協働性をあわせ持つ、"リゾーム型組織※2" への本格的な変換が求められる状況になりました。逆に言えば、その変換により会の強みをますます強固にし、よりしなやかに運営体制を変えていくチャンスでもありました。

※2特定の中心を持たず、根茎 (リゾーム) のように繋がり支えあう組織

ワークショップの様子変換を促す基盤として、スタッフが自立して動き、しかも会の方向性がブレないための "自分達で作った理念" が必要だと考えました。自らの言葉で会の中心軸となるコンセプトを創りだすことで、様々に関わるスタッフ共通の "活きた" 活動理念として、日々の業務に活用され、行動計画の実行性が高まることも期待されました。そこでNPO向けの基盤整備の助成金 ( Panasonic NPOサポートファンド) を受け、外部のファシリテーターに依頼し、21時間かけてワークショップを行いました。 (この作業の過程については、詳しくは「2007年度活動報告書」12P・13Pの「新体制づくり」をご参照ください。
「2007年度活動報告書」は、 ライブラリ > 活動報告書のページからもご覧になれます。)

■スタッフはどのように変化したのか

ワークショップに参加した新人スタッフからは、次のような感想が寄せられました。
「中Rの歴史がわかったのが良かった。先人たちが想いを持って活動してきたことを実感した。」
「今までよくわからなかった活動方針の意味がよく理解できた。」

様々な経験・立場のスタッフの、会に対する知識と認識をある程度揃えることができ、ベクトルを合わせることができたのは、それぞれの力を最大限発揮する基となり、活動も進めやすくなりました。

また、「自分たちの方針を自分たちの言葉で」と、新たに作ろうとしていた活動方針ですが、その模索の過程において、逆に今までの方針がいかに充実していたかを実感することができました。結果として、従来の方針を土台に新しい方針を決めることになりましたが、そこに至る充分な話し合いを重ねたことにより、 "以前からあった活動方針" から "自分たちの活動方針" へと、スタッフの認識が変化しました。新代表の一人、永田秀和は、「代表交代、また新人も入ったこの時期に、過去を確認し今後のことを考えられたのは非常に貴重な経験だった」と振り返っています。

■現在の意志決定の仕組み

もともとスタッフのモチベーションは高く、前向きな姿勢は充分ありましたが、全員が会の方向性から考え行動するという点では、不十分な面がありました。しかしこのプログラムを通じ、討論しながら自分たちで会のあり方を決定していくのだという雰囲気ができ、主体的な意見が交わされるようになりました。

現在は自分たちで決めた計画に基づき、ミッション達成のためのさまざまなプロジェクトチームが活動しています。各チームはその進捗状況を意志決定機関であるスタッフミーティングに報告し、承認を得たり、意見をプロジェクトにフィードバックします。スタッフの情報共有をはかりながら、個人ではなく組織で意思決定できる体制づくりをすすめています。「新しい仕事を受ける際、スタッフで調整や検討をしてから開始するので、配分がやりやすくなった」というスタッフの声も聞かれました。

「リゾーム型組織」へもう一人の代表、和喜田恵介は、「今後も一つひとつの部門が、会のミッションへ向けた明確な目標を部門独自で立て、実行し、振り返り、活動を改善・発展させられるようにしたい。」と語り、目的であった "リゾーム型組織" に一歩近づくことができました。また、「代表になる、という重さから感じていた不安なプレッシャーはなくなりつつある。今の状況なら、自分がいなくても問題ないと思うこともある。」と、意思決定を代表だけに頼ることへのリスクマネジメントが進みつつあるようでした。

■世代交代を終えて〜これからの中R

前代表の萩原喜之は、世代交代できた要因として「受けてくれる人がいたということと、財政的に安定していた状況だったこと」を挙げています。さらに、「果たして代表の交代=世代交代といえるのかどうかと思う。中Rが28年続いてきたのは、その中にすでに緩やかな世代交代があったからじゃないかな。皆の自然な認識の中で、状況に合わせて働く人材が変わってきている。戦略的な攻めの人事はしなかったが、自然体で会が回ってこられたのはそのためだと思う。」と振り返っています。

永田秀和は、「まだ日常の業務に追われることが多く、代表としての自覚が薄いため、もっと深く考えなければと思う。」と反省しつつ、「せっかくできたビジョンやミッションに常に立ち返って事業を進め、活かせるようにしていきたい。」と、大きな視野で運営に取り組むことを目指しています。同様に和喜田恵介も、「今回のプログラムを通して、組織としてのリゾーム型の目処は立ったので、今後はさらに根を太く・広く伸ばし、周りを巻き込んだ大きなリゾームを形成したい。」と外へと意識を向けはじめました。

一方、ある理事は次のような課題を指摘しつつ、期待を寄せています。
「萩原さんから、若い和喜田さん、永田さんの共同代表制に代わっても通常の業務は遅滞なく遂行され、顧客の満足も達成している、と評価している。ただ、 "中Rの総力を挙げて取り組む" というような熱意とか、社会の課題を切り開いていく "先駆性" "挑戦" などの姿勢はあまり見られないという意見も聞かれる。 "循環型社会づくり" の先駆者としての中Rを目指し、若い体制が、挑戦を全面に掲げて地域社会をリードすることを期待している。」

■世代交代をむかえるNPOへ

萩原喜之が考える、これから世代交代をしていくNPOへのアドバイスは次の通りです。
「普遍的な方法はないと思う。その組織の状況による独自の判断しかない。ただ、去る方も残る方も自分に都合よく、と考えるのは仕方ないが、その上位に "自分たちが目指すものがスムーズに達成できるかどうか" があると思う。僕はこの "目指すもの" を常日頃からきちんと共有することを心がけてきた。折に触れ、繰り返し発言の中に入れて、スタッフがそこに立ち帰れるように。マネジメントは金銭など物質的なものもあるが、それよりミッションマネジメント、つまりなぜやっているかが重要なのでは。そして大事なのは "人" 。意志のある人がいないというのは、やる必要がない、できないということ。 "人" が "財産" として存在するのかどうか。自発性が尊重されるようなやり方で、意志で動く組織をつくる。それしかないかな、と思う。」

確かに、組織としてのビジョンやミッションがしっかりとあって、それがきちんと言葉になっていたことは、受け継ぐ者たちとしてとてもありがたいことでした。どのNPOも理念は明文化されているとは思いますが、普段からそれを繰り返し共有・活用すること、地道なことですが、それが会の舵取りが必要になったときに力を発揮するのではと思います。

(報告 / 庄司 (里) )